さまよえる地震予知: 追い続けた記者の証言

前表紙
紫峰出版, 2019/08/01 - 214 ページ

「日本の悲願」地震予知がたどった道を克明に描く

新たな「地震発生の可能性の高まり」への疑問


 地震国日本の悲願とも言える地震予知。それがさまよい続けているように思えて残念でならない。最初はマグニチュード(M)8クラスの東海地震なら予知できるとされ、予知と防災を結び付けようと大規模地震対策特別措置法(大震法)ができた。ところが、そのうち地震予知の難しさがクローズアップされ、阪神、東日本の両大震災を経て「地震予知は一般的に困難」という報告書が専門家によってまとまった。


 これだけならまだよかったのだが、今度は「大規模地震が発生する可能性の高まり」という考え方が出てきた。東海地震で夢見たような直前予知はできないけれども、東海地震を含め南海トラフ沿いで起こる大規模地震に関して「どうもあやしいから警戒を」といった程度の情報なら出せそうだとなったのだ。


 どんな場合なのか。代表的なのは、例えば東海地震の発生によって紀伊半島や四国など南海トラフ沿いの西側が割れ残った場合の「半割れケース」。専門家による評価検討会がこのケースだと判断すると、気象庁が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)を発表する。津波の危険性の高い地域では住民が1週間程度避難する。でも何かヘンだ。そう、南海トラフ地震の一つが現実に起こってしまい、続いて起こりそうな巨大地震に警戒を呼び掛けるというのだから、臨時情報のありがたみはあまりない。


 残る2つのケースは、南海トラフ周辺で一回り小さなM7クラスの地震が発生する「一部割れケース」と、海のプレート(岩板)と陸のプレートがぶつかり合うプレート境界がゆっくりとすべる現象に異常が観測される「ゆっくりすべりケース」だ。どちらも切迫性があまりないから、気象庁は一段低い南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を出す。同庁が東海地震の予知で焦点を合わせていたのはゆっくりすべりケースだが、これをキャッチできても大規模地震の発生時期などは何も言えないとして脇役に回された。


 筆者は40年以上前に東海地震説が提唱されたころからずっと地震予知問題を見詰め続けてきた。地震予知の可能性を信じ、東海地震の予知も有望だと考えてきた。その意味で反省すべき点は多い、一方でここにきて内閣府(防災担当)などが「地震発生の可能性の高まり」を持ち出し、地震予知をますます混迷化させていることが理解できない。どうして、こんなことになってしまったのか解き明かそうと考えたのが本書だ。政府が設けた会議では、半割れケースが出てきたことの是非や、役立たなくなった大震法をどうするのかについての議論がなぜかほとんどなかった。


 地震予知と深くかかわった専門家たちのエピソードをできるだけ入れるようにしたほか、国立大学の名誉教授などを含む民間研究者が地震を予知・予測できると称し、それを週刊誌や民放が興味本位で取り上げるという嘆かわしい実態にも迫った。密着取材したジャーナリストが「東海地震の予知」の歩みを克明に描いた報告書になっている。

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目次

セクション 1
2
セクション 2
5
セクション 3
12
セクション 4
78
セクション 5
96
セクション 6
138
セクション 7
170
セクション 8
176
セクション 9
182
セクション 10
198
セクション 11
212

多く使われている語句

著者について (2019)

科学・環境ジャーナリスト。1944年仙台市生まれ。東京大学理学部卒。同大学院理学系研究科修士課程修了。69年毎日新聞社入社。科学環境部長、論説委員などを歴任し、2003年淑徳大学国際コミュニケーション学部教授。同大客員教授を経て17年4月から18年3月まで同大人文学部教授。現在、環境省「国内における毒ガス弾等に関する総合調査検討会」検討員、埼玉県和光市環境審議会会長。日本環境学会、環境放射能除染学会、認定NPO法人気候ネットワーク、認定NPO法人環境文明21、日本科学技術ジャーナリスト会議各会員。中央環境審議会特別委員・臨時委員、埼玉県環境審議会会長などを務めた。著書に『次の大地震大研究 地震記者は訴える』(光人社)、『地球温暖化と気候変動』(七つ森書館)、『3・11学 地震と原発そして温暖化』(古今書院)、『いま地震予知を問う 迫る南海トラフ巨大地震』(化学同人)、『気候の暴走 地球温暖化が招く過酷な未来』(花伝社)、『原発と地球温暖化 「原子力は不可欠」の幻想』(紫峰出版)、『徹底検証!福島原発事故 何が問題だったのか』(化学同人、共著)などがある。千葉県柏市在住。

書誌情報