新・発達心理学ハンドブック

前表紙
田島信元, 岩立志津夫, 長崎勤
福村出版, 2016 - 1004 ページ
本ハンドブックは,20余年前に刊行された東洋・繁多進・田島信元編集企画『発達心理学ハンドブック』(福村出版,1992年)の新版として編集され,刊行されるものである。旧版は,1980年代の新潮流を受け,学際的,実践科学的アプローチを目指して1989年12月に発足した日本発達心理学会を記念して企画されたもので,学会設立から20余年を経た現在,発達心理学は大きな変化をともなって確実に進歩してきており,多くの新情報を追加する必要性を痛感し,このたび,本ハンドブックの新版を編集するに至った。
本書の特徴は2つある。一つは,旧版の意義と新版への移行の必須性にもとづき,旧版の枠組みを基本的に継承したことである。このことにより1960年前後から始まった発達心理学的発想への大転換の波の最中にあった1990年代の日本発達心理学会設立当時の発達心理学理論,研究の立ち位置と状況をふまえた旧版を土台として,2010年代に至るこの20余年の間に達成されてきた新情報を加えることで,現在の立ち位置を確認することが可能となるのである。
もう一つの特徴は,第一の特徴を実行に移す計画を練ってみると,どうしても新設章で対応しなければならない領域や,旧版の章の構成自体を変更して対応しなければならない部(領域)が生じたことによる,新設章や章立て改変を試みたことである。これらの存在は,この20余年の間に大きく変化した領域を示しているのである。改めて,この20余年の間に大きく発展,展開した領域であることがご理解いただけるはずである。
発達研究は,「認知科学」,「文化心理学(文化科学)」そして生物科学と社会科学を統合した「発達科学」へと収斂していき,そのためには,学際的,総合的,実践的理解が不可欠になった時代が到来したといえよう。これまで,とかく細分化,分業化されてきたアカデミズムに対して,子ども,人の包摂性を「発達」というキーワードによって取り戻すことの必要性,そのためには,「変化・発達」という概念を,実践・教育科学のなかで再吟味していくことの必須性が強調されはじめている。こうした現代の立ち位置と,それにもとづく発達心理学,発達臨床心理学の貢献の再吟味,そして今後の展望を具体的に描いていく必要性を強く感じるしだいで,そのあたりを本書を利用するみなさんにくみとっていただければ編者の一人として本望である。
編者代表田島信元

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