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島あの頃はもう、行動家が何か言ったりすることは珍し い時代になっていたと思いますが、あなたはその例外的な 存在だったのでしょう。ちょっと大袈裟かもしれません が、佐伯さんにとって、行動と願望との差異を両方とも書 ける形式が小説なのかもしれませんね。 佐伯うーん。

同時代文学との道遇

島 『限りなく透明に近いブルー』は、佐伯さんが高校二 年生の時に出たと思いますが、リアルタイムに読みました か。 佐伯 読みましたよ。結構面白かったですね。今になって みれば、何回もスケッチをしては書き直すという、小説にB 費やした時間のあり方が「ア・ルース・ボーイ」と同じだ ということが透けてみえますけれども。 島あれもある種の私小説ですからね。ほかの作品につい

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読者の皆様へ

これまで、三島由紀夫賞発表号では、受賞作の再録及び抄 録を基本方針としてきました。しかし今回の受賞作、佐伯一 変氏「ア・ルース・ボーイ」は、小誌四月号に掲載したばか りであり、また間もなく(六月二十六日予定) 小社より単行本 として刊行されますので、今回は再録を見合わせて、受賞第 一作を掲載することに致しました。 右御了承の程お願い申し上げます。

編集部

「私」の内実

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を降りて、道を歩く女子高生を見ながら妄想に就るところ で始まっているんですが、今度の小説の冒頭に出てくる坂 道も同じ坂で、一緒なんですよ。 島それは盲点でしたね。佐伯さんにとって、高校時代いう「時」だけではなく、「場所」も大きいかもしれませ ん。 佐伯 だから、ぼくと同じような文学青年は、みな井上ひ さしになりたい、と思っていたんです。おれは全然そうは 思わなかったけれど(笑)。だから、『青葉繁れる』が映画 化されて学校でロケをした時、秋吉久美子にサインしても らったビート板が水泳部の宝として残っていたりするんで すよ。 島 へえー。井上ひさしさんはぼくの大学の先輩で、四谷 の来来軒なんかを書いたほとんど唯一の人というイメージ があるけれど、その前があったんですね。 佐伯中学時代は凄く愛読したんです。ただ、高校に入る と、教師なんかが井上さんと同年輩で、昔はこういう人だ ったなんて思い出話をしたりすると、てやんでえ、と思っ たりしてね。そういう教師は、みんな嫌いだったから。 島 佐伯という人は、一応表面ではそれはそれでわからん ではない、という顔をしておいて、家に帰って、だけどお れは違うからな、と思っているような気がするな。 佐伯そうですね。ここでぼくの小説の核心を言わせても らえば、拒絶反応を絶対に避けたいんです。たぶん、「木 を接ぐ」を書いた頃はまだ、拒絶反応じゃないつもりだっ

島つまり、壊すために枠は再構築しておこう、というこ とでしょう。その枠の中に入ってからじわじわ壊してやる ぞ、という感じ。だから、あなたは近代的な建物に入って も、その天井裏はどうなっているか、という風に考えるで しょう。文学でも、そういうことをやっているような気が するな。 佐伯ただ、好きで良く読むせいもあるけれど、そこで和 田芳恵さんとか野口富士男さんの名前が出てきてしまうか ら、その辺でただ古風と言われてしまうのかもしれません ね。ただああいう人たちが私小説を壊しているから、その あり方が面白いんですよ。

私小説の正統性とは?

島 私小説の正統性というのはどこにあるんですか? 佐伯それはやはり、「私」を壊した人が私小説を書く、 ということがありますからね。「私」を壊すと言った時に は、私を自然の方に溶解させてゆくという方向もあるけれ ども。 島つまり、自分という一人の人間を実験台にして、どこ まで壊してゆけるか、ということをやった人たちの系譜が あるわけですね。 佐伯そうです。だから、言葉を使うから少し違うけれど も基本的には自画像なんです。他にモデルはいらないし、 自分自身に対しては一番容赦なくモデル化できるわけでし ょう。なんかそういうことをやり

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