の番組を観ている長女に、散歩にでも行くか、と私は声を 私の二三歩後を腕を前でぶらぶらさせ顎を出すような恰 私と娘は、並んでブランコに座った。そこは、中学時代 た。 お父さんはな、と私は娘に話しかけた。運動会のときと なかった、不公平になるから入学金の代わりに貯金してお いた金だ、と親父が言った。私は通帳を開いてみた。額面 五十万円の貸付信託の証書だった。お前のものだ。親父が もう一度言った。これで嫌なことを切り出さなくて済ん だ、と私は思った。だが、女房子供をダシにして無心に来 た下心を見透かされた思いに強い自己嫌悪が拭えなかっ た。 翌朝一番の新幹線で私達は帰途についた。帰省の目的を 果たせば長居は無用だった。それに、早朝のまだ眠い時間 の方が長女の乗り物酔いにはいいように思えた。女房の腹 の中の子供が生まれたときは見舞いに行くと、わざわざ駅 のホームまで見送りにきた両親が言った。娘たちは、親父 に買ってもらったお出かけワンワンを後生大事に抱え込ん でいた。 列車が動き出すと、私は右手の窓の外にしっと目を遣っ アルマジロ王 島田雅彦。 共通感覚という愛を捜しつづけるみなし子たちに、救世主ア ルマジロ王は現れるか? 愛と性と思想の放浪の物語「アル マジロ王」。他に精鋭短編六編。 定価1150円(税込) 新潮社版 り場のない怒りに包まれたそのことが、逆に救いのように 祠の裏手に回った私は、煙草に火を点けた。一服してい 新幹線が行人塚の前を通るときに、私は窓に顔を押しつ あなたのお母さんたら、もう子供は沢山にしなさいよな (~ |