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言及するという目的に限定した上で、ばらばらの紙の
上に一連の投影図を作製することは、理論上何ら禁し
られるものではない。

最後に、地図は記号論的装置であること。つまり帝
国を意味し、あるいは帝国についての言及を可能にす
る能力を備えていること。地図がなければ帝国が知覚
されえないような場合においては特にそうであるこ
と。この最後の条件は、地図が、領土上に恒久的にひ
ろげておくことで、その上に領土自体の起伏の位置一
つひとつが投影されることをねらった透明紙であるこ
とを認めるものではない。なぜなら、かかる場合、地
図上でなされるあらゆる調査は、同一所要時間内にお
Sて、下にある領土上でなされることになり、地図は
〈描く〉というその最大の実存的機能を失うことにな
るからである。

それゆえ必要条件は、い地図が透明でないこと価領
土の上にひろげられていないこと、そして最後に「地
図の各場所が地図に表わされた場所ではない領土上の
場所にあること、このいずれかである。

ここからは、この三つの解谷のそれぞれが克服不可
能な実用上の障害と理論的パラドックスに逢着するこ
とが論証される。

2.地図作製法 2.1.領土上にひろげられた不透明な地図

不透明であることによって、地図は下にある領土の

ることが可能になるのは、地図上の領土に対応する部
分にわれわれが居住するときだけである。そのとき地
図は、われわれが地図の上で参照する部分とは異なる
領土上の部分に関する情報を引き出すことを妨げるも
のとなるであろう。

パラドックスが克服されるとすれば、それは地図の
上空を飛行することによってであろう。だが(ただし
6一枚の紙もしくは亜麻布に全面的に覆われた領土に
繋がれた凧もしくは気球に乗って脱出することの困
難、耐上からも下からも等しく地図の参照を可能にす
るという問題、価地図なしで領土上空を飛行しても、
同じ認識結果に到達しうるという事実、は別に考え
る)臣民のだれが地図の上空を飛行するにしても、そ
のために領土を離れることになるわけだから、地図は
自動的に不正確なものとなる。なぜなら地図が表示し
ている領土は、空中観察の行われているその瞬間、実
際の人口より少なくとも一名多い総数を有しているこ
とになるからである。それゆえこの問題を解消しうる
とすれば、それは臣民たちを表示することのない貧相
な地図の場合のみということになる。

要するに宙吊りの地図については、それが不透明な
場合、ひろげられた地図について有効な反論がそのま
ま有効なのである。不透明な地図は太陽光線と降水の
通過を妨げることによって、領土の生態系のバランス
に変化を生じさせ、その結果、不正確な表示となって
しまうのである。

のタイプの折りたたみ判とは異なるとしても、物理的 にはより困難を伴うであろうし、いずれにしても第三 のタイプの地図に妥当する折りたたむことから生ずる パラドックスの危険に晒されることになるだろう。つ まり一枚の地図に対して異議を申し立てれば、それは そのままもう一枚の地図に対しても有効となると思わ れる。

2.3.透明で浸透性をもち、ひろげても方向転換可能
な地図

この地図は(たとえばガーゼのような)透明で浸透
性のある素材の上でトレースされたもので、地表にひ
ろげたときに方向転換が可能でなければならない。

しかしながら、トレースしてひろげた後には、臣民
が地図の下にある領土上に残っているか、あるいは地
図の上にのっているという事態が生ずる。もし臣民た
ちがみずからの頭上で地図を作製したとすれば、身動
きひとつする度に地図が表示する臣民たちの位置に変
更が生じる(ただし貧相な地図に甘んずるなら話は別
である)ために、身動きができなくなるばかりではな
い。身動きすることによって、頭上のかぎりなく薄い
ガーゼの膜の糸をもつれさせ、相当深刻な事態をひき
起こすことになるのである。つまり地図を不正確なも
のにすることになるのである。なぜなら地図は領土の
平面図と一致しない災害地帯をかかえることで、地勢
学上異なる形状を帯びることになるからである。

図を置いて回転させ、別方向にひろげるための場とし
て、中央部に広大な砂漠が存在すること。同地図がど
の方角に向いても国境線から外れない(実寸大のイタ
リア地図なら九〇度回転させれば海上に出てしまう)
ように、領土は円形もしくは正多角形であること。い
その場合、地図の中心点が常に地図上、領土の同一部
分に位置することになるという不可避的条件を受け入
れること。

これらの条件が満たされることによって、臣民たち
は帝国の辺境にある国境地帯に集団で移動することが
可能となり、臣民たちを内側に巻き込んだまま地図が
折りたたまれる事態を回避することができるのであ
る。全臣民が地図の(つまりは帝国の)周縁に集結す
るという問題を解決するためには、以下の条件を公理
とみなす必要がある。帝国に居住する臣民の総数は地
図の全周の測定値を超えないこと、その際、周の測定
単位は起立した臣民一名の占有する空間を一とするこ

と。

ここで、臣民各人が地図の縁をつかみ、徐々に後退 しつつその縁を折りたたんでゆく場合を想定してみよ う。臣民全員が折りたたまれた縁を頭上に掲げたま ま、地図の上を、領土の中心に増集してくるという危 機的局面をむかえることになるであろう。いわゆるキ ンタマが縮み上がるような緊急事態である。帝国の全 人口が一個の透明な小養のなかに閉じ込められたまま になるわけであるから、理論的停滞状況であり、肉体

地図が向きを変えてひろげられたときに、臣民たちが
取るべき位置の問題である。地図が正確であるために
は、臣民一人ひとりが、地図をひろげ終えたとき、表
示の時点に現実の領土上で占めていた位置につくこと
が必要となろう。この代償を払うだけで、その上に地
図上の点があると仮定される領土上の点zに住む臣
民一名は、偶然領土上の点Yの上にある地図上の点X
において正確に表示されることになるであろう。臣民
一人ひとりが同時に、自分の居住地とは別の地点に関
するさまざまな情報を(地図から)獲得することが可
能となるであろう。そのなかには自分とは別の臣民も
含まれることになる。

煩瑣で実用に際しても困難を伴うとしても、この問
題の解決策として、透明で浸透性があり、ひろげたと
きに方向転換可能な地図を最良のものとして挙げるの
は、貧相な地図にすがることを避けるためである。し
かしながらこの地図もまた、先に挙げた地図と同様、
〈標準地図〉のパラドックスには影響を受けやすいの
である。

3.(標準地図〉のパラドックス

地図が全領土を(上にひろげられていようと宙吊り であろうと)覆いつくすように設置された瞬間から、 帝国の領土は、一枚の地図によって全面的に覆われた 領土であるという事実によって特徴づけられることに なる。この特徴について地図はその根拠にはならな

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