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腕をふりおろし、石の先端が設丘のもろい岩盤にあたっ た。すると驚くべき現象が起きた。先端は岩盤に衝突し、 その奥まで貫通し、亀裂を走らせたかと思うと、粉々に砕 いたのである。また同じ動作を教授が繰り返すと、先端は 岩盤に喰い込み、亀裂を走らせ、陥没を生じさせ、やがて それが穴になり、破片を散らしながら砕け散り、最後には ひろいクレーターが出現した。

将軍は息をのみ、眼をまんまるくしてこの様子をみつめ ていた。「すごい」かすれた声でつぶやくと、かれは生唾 を呑み込んだ。 「いや、こんなことは何でもありません」勝ち誇ったよう に教授は言った。「こんなこと何でもないのです。たとえ いまだかつて指でこんなことを成し遂げたことなどなかっ たとしてもですな。今度こそ、よくご覧になっていてくだ さいよ!」片隅から、ざらざらして固くて、どうみてち壊 れそうもない大きなヤシの実をひとつ取り出すと、将軍に 差し出した。 「さあ」教授は言った。「両手でしっかり持って、粉々に してごらんなさい!」 「よしてください、カー」将軍は言った。声が震えてい た。「無理なことぐらい、よくご存知のはずなのに。われ われ人間にそんなことができる者がいるなんて......恐竜ぐ らいなものでしょう、足で一撃すれば、恐竜なら果肉を食

学者の埒もない臆病風というやつですよ。この中に五年も 閉じこもりきりでいるから、世の中のことなど何もご存知 ない のです! われわれが文明の曲がり角に立っていると いうことも、コアムムム族が勝利を収めれば人類にとって 平和も自由も喜びもありはしないということも、あなたは 分かってらっしゃらない! われわれにはこの物体を所有 する神聖なる義務があるのです! なにもすぐに使用する とは申しません、カー。これがわれわれの手にあることが 知れれば充分なのです。敵の目の前で実験をしてみせれば よいのです。後は使用を控えていても、われわれがこれを 持っているかぎり、誰もわれわれを攻撃しようとは思いま すまい。その間にこれを墓の掘削や新しい洞窟の建設、果 樹の伐採や土地を均すことに用いればよいのです! 所有 すれば充分なのです、使用する必要はありません。威嚇防 衛手段なのです、カー、コアムムムのやつらをむこう何年 間もおとなしくさせるためなのです!」 「いや、ちがう、ちがうのです」落胆してカーは言い返し た。「これを手にしたら最後、もはや何人たりとわれわれ を止めることはできないのです。破壊しなければならない のです」 「そうなればあなたは大した大馬鹿者だ、カー!」将軍は 怒りに青ざめていた。「あんたはあいつらの肩を持てばい い、隠れコアムムム族だよ、あんたも、あんたとご同類の

大木のまわりにうずくまり身じろぎひとつしない生物の円陣は 無言で物思いにふけっていた。吟唱詩人バアは夢中になって物語 を語っている間、むきだしのからだをしとどに流れるにまかせて いた汗をぬぐった。それからその大木の方に向きなおった。大木 の下には首領がすわって、舌なめずりしながらその太い根に齧り つこうと身構えていた。 「強大なるシュッダーさま」恭しくバアが言った。「わたくしめ の話、必ずやあなたさまのお気に召したことと存じます」

シュッダーはうんざりした素振りを見せた。「貴様たち若い者 のいうことは分からん。もしかすると優が年を取ったのかもしれ んが。おまえの想像力はたいしたものだ、小僧、それだけじゃ。 だがなはSFは好かん。敢えていうなら、歴史小説のほうがま だましじゃ」こう言うと、傍にしわくちゃの顔をした老人を呼び 寄せた。「優の善良なるクグルーよ」かれは言った。「そちを新唱 法の師にしておくわけにはいかん。そちならまだ少しは味のある 話をする術を心得ていよう。今度はそちの番じゃ」 「畏まりました、強大なるシュッダーさま」クグルーは言った。 「それではこれより愛と情熱と死の物語をお聞かせいたしましょ う。前世紀の出来事でございます。そのを『首座大司教の謎、 あるいは失われた指輪の紛失』と申します」

(一九六一年)

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