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わたしの少年時代はそりゃあもう戦争一色といってもい いくらいだった。灌木のしげみから旧式の火縄銃を撃って みたり、たまに駐車している車があればその陰に隠れて自 分の連発銃を連射したり、白兵戦の指揮をとったり、血な まぐさい戦場で倒れたりして遊んだものさ。家に帰れば、 おもちゃの兵隊があったしね。全兵力挙げて胃の痛くなる ような作戦計画に参加して、何週間にも及ぶ作戦の連続 で、戦局の長期化にともなって、ついにはぬいぐるみのク マの足跡や妹の人形まで動員したこともあったな。傭兵隊 を組織して、よりすぐりの忠実なならず者たちから《ビア ッツァ・ジェーノヴァ(今のピアッツァ・マッテオッティ だ)の恐怖》なんて呼ばれたこともあったっけ。その《黒 獅子隊》を解散して、もっと強いゲリラ部隊をつくって軍 部クーデターを決行したが、結果は悲惨だった。そこでモ ンフェッラート城に避難していたら、無理やりストラディ ーノの部隊に入隊させられて、尻蹴り一〇〇発、鶏小屋監 禁三時間なんて入隊歓迎式を受けることになった。戦いの 相手はリオ・ニッツァの傭兵隊という勝つためなら手段を 選ばない手ごわ いやつらで、はじめて戦ったときには怖く て逃げだしたし、二度目のときには口に石をぶつけられて れ、それでいまでも舌でさわると口のなかに石つぶが残っ ているような感じがするんだ。(本当の戦争がはじまった のはその後だ。友達といっしょにパルチザンたちに軽機関

部劇(すさまじい乱闘シーン、酒場の壁をぶち壊し、派手 な音を立ててテーブルがひっくり返り、大きな鏡が粉々に 割れたかと思うと、ピアニストが撃たれ、窓ガラスが砕け 散るようなやつ)を観た後でおもてに出ると、心が清らか でやさしく、くつろいだ気分になっていて、肩にぶつかっ てきた通りすがりの人に微笑みを返してみたり、巣から落 ちたスズメの子を助けてやったりすることがあるじゃなS か、あれと同じさーそれをアリストテレスもよく分かっ てたんだな、悲劇においては、最後にカタルシスをもたら す聖なるイギリスの塩で完全にわたしたちの心を浄化する ためには、血に赤く染まった布をこれ見よがしに振り回す 必要があると主張したんだから。

それでかえってアイヒマンの子どもの頃を想像してしま うんだ。うつむいて、死の会計係みたいな目つきでハンド ブックの説明を読みながら、メッカーノ〔組み立て玩具] に頭を悩ましている。飛びつくようにして小さな化学薬品 の入ったカラフルな箱を開け、冷酷無比な表情で、手の幅 くらいのかんなと二〇センチのノコギリの付いた華やかな 大工道具を合板の角材のうえに並べてゆく。子どもたちが ちいさなクレーンをつくっている光景を考えるだけでも恐 ろしいじゃないか! かれら小さな数学者たちの冷酷でゆ がんだ頭のなかで残忍なコンプレックスが抑圧されてい き、大人になったかれらを刺激することになるんだから。

を機敏に受け止めることができるようになる。 すると

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