四月最後の日は朝からしとしと雨だ。雨を見るとセンチ 期待は裏切られるためにあると仙吉は思う。好きな五月 と、どなられて往復ビンタを食らった。連れ立って昼の わるいことは重なって刈田も怒られた。庶務の伊勢主任 への往復四キロ、学校へは五キロ。毎日十キロ近く歩くの で靴の損耗の甚しいことが身にしみていたところだ。 おまけに役所から借りたばかりの自転車が実は食わせも 前略母上様。小生は革靴が破れて恥をかき候。教練 仙吉より 物を与へし事新聞に 一斉にとりはずされたので課内はまるで晩秋の寒さであ る。だれもが鳥肌立ててえながらの執務だ。 野村の頭はよっぽど脆くできているらしく今日も頭痛を 札束を大事に抱えて走って帰ろうとすると、一階に通 仙吉はびっくりして無言で首を横に振った。 だめです梅川さんに叱られますというのにアキラさんは しかたなくあとについて八畳間に入ると福島さんや土屋 仙吉が受けとったままの恰好でいると、アキラさんは、 といって一升壊から半分ほど酒をついだ。 恐る恐る口にした冷や酒を仙吉はうまいと感じた。下を 向いて思い切って飲み干した。 「いい飲みっぷりだ、もういっぱいやりな」 「もういいです」 「駆けつけ三杯というやつさ。酒は押入れにまだあるん 土屋さんが仙吉の背中をとんとんと叩いた。 まだ咲きこみながらタバコを返した。役所では毎日のよ くすくす笑う三人に頭をさげて部屋に戻った。頭がしん 夜具に腹這いになって日記を開き、まず「俺の大馬鹿野 たはむれに誘はれて服みし巻煙草 堕落を悟りてぞっとしにけり 郷里の国民学校で親友だった安東茂雄が横須賀の海兵団 芸術を志す者は軟弱な卑怯者だろうかと仙吉は考えはじ めている。さしあたりどうすればよいか判断がつかないが |