ない顔で、うなずいた。 先日、江南の意見でもう一度新聞にちらしを入れた。や と女をさそった。うなずいているところをみると、女は 二階の特別相談室も、やはり和室である。大きい家具は なにもなくて、座布団が三枚敷いてあるだけだが、入り口 のそばに、津山の妻の使っていた折畳みの文机がおいてあ る。その上には、妻がいたころ誰かから贈られた螺鈿の盆 がのっていて、無料ということにはなっていても、出して もらいたい心付けを受けるようになっている。地味なのに 目立つ螺鈿の盆は、そういうことにはとても役立つようで ある。 心付けの中には、時として何十万というのもあるから、 ミネラルウォーターや香の代金、交通費などのような経費 を差し引いても、たっぷり余ることのほうが多いのだが、 れで津山は感激して、一度も払ってもらったことのない電 会社を定年でやめたとき、津山は、年金に組み込んだ退 と思い出したように矢崎に恐縮されると、津山はいつも 人がいるから、なんなら紹介してもいい と矢崎はいうのだ が、その洋品屋は断っていた。万が一失敗したら困るとい って、津山の手かざしのほうが、たとえ効かなくても害が ないだけいい、というのだった。 「津山先生のだって、少なくともその日一日は効いてるか らさ」 と笑うその男は、螺鈿の盆にかならず千円入れたぽち袋 男は、矢崎や江南の案内やなしに一人で入ってくると、 : きやすいのだと矢崎に教わったのである。 男が起きてから、津山が、どうですか、ときくと、男は、 「ああ」 とこたえた。痛いといわないから、痛みは忘れているの 男はいつものように、新聞屋が正月に配る、子供っぽい 次に来たのは、津山の家の近所の奥さんだった。空腹で 白い苔は口臭のもと、と矢崎のSっていたことを思い出 をおさえられなくなった。 「今井さんとおっしゃるそうです」 矢崎は、女に座布団をすすめながら、津山にいった。 津山は黙って頭を下げた。なんだか喉がからまっている と矢崎がかわりに話し始めた。 津山が突然口をはさむと、今井征子は驚いたように津山 |