新潮, 第 89 巻、第 1〜3 号 |
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8 ページ
常にないことであった、と聞庵はいくらか興奮して書いている。太閤一代記を
語った雨庵は、晩年にさしかかってとつぜんはなやぐ醍醐の花見を調子を高めて
語るのである。ところで、醍醐寺はこの頃から下醍醐、上醍醐に分れていたよう
だ。
常にないことであった、と聞庵はいくらか興奮して書いている。太閤一代記を
語った雨庵は、晩年にさしかかってとつぜんはなやぐ醍醐の花見を調子を高めて
語るのである。ところで、醍醐寺はこの頃から下醍醐、上醍醐に分れていたよう
だ。
9 ページ
当時、私は、伏見墨染町にあった陸軍の中部四十六部隊重靴馬隊にいた。二十六
歳だった。ざっと五十年近く前になる。昭和十九年は敗戦の前年で、大本営の
発表では冬正月にインパール作戦に入って戦果をあげている様子だったが、
じつは、 ...
当時、私は、伏見墨染町にあった陸軍の中部四十六部隊重靴馬隊にいた。二十六
歳だった。ざっと五十年近く前になる。昭和十九年は敗戦の前年で、大本営の
発表では冬正月にインパール作戦に入って戦果をあげている様子だったが、
じつは、 ...
11 ページ
だぶきのそり使の屋根で、大きな菊の章を章りこんだ厚 S 扉板の開しられた門の
前であった。その手前に長い木枠にはめこまれた柵がある。中央はえぐれた石畳
で、丸瓦をふいた土塀が、鳥が羽根をひろげたようにかたちよくつき出て、一方
...
だぶきのそり使の屋根で、大きな菊の章を章りこんだ厚 S 扉板の開しられた門の
前であった。その手前に長い木枠にはめこまれた柵がある。中央はえぐれた石畳
で、丸瓦をふいた土塀が、鳥が羽根をひろげたようにかたちよくつき出て、一方
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16 ページ
東京の病院もむろん不足はなく、主治医も看護婦さんもやさしくしてくれたのだ
けれども、私には薬の副作用と思われる全身サボテンになったような、脇や股の
皮のうすい箇所に、竹のソゲがたつみたいな感触があって、ちくちく痛く感ぜ ...
東京の病院もむろん不足はなく、主治医も看護婦さんもやさしくしてくれたのだ
けれども、私には薬の副作用と思われる全身サボテンになったような、脇や股の
皮のうすい箇所に、竹のソゲがたつみたいな感触があって、ちくちく痛く感ぜ ...
17 ページ
個室へ病院の事務長さんがきて、「急なことだが」と前置きされ、部屋を空けて
もらいたい、それについては、のっぴきならないことがあってお願いするのだが
、と丁重な物言いで、じつはこの病院の理事長でもある九十をすぎた高齢の方が
...
個室へ病院の事務長さんがきて、「急なことだが」と前置きされ、部屋を空けて
もらいたい、それについては、のっぴきならないことがあってお願いするのだが
、と丁重な物言いで、じつはこの病院の理事長でもある九十をすぎた高齢の方が
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