ロマン的人物記明治書院, 1998/11/10 - 324 ページ 私は自然に対する親愛感絶無にひとしく、私の脳裏・胸裡の全幅を領するは人間への好奇の念なのだ。本書は、かかるたちの、さがの男が多年親炙した、或いは一度面晤したきりでも容易に忘じがたい印象を蒙った人々の、ポルトレ蒐選である。題するに又ぞろ「ロマン的」なる語を冠した点については、これが含意するところは各文章を通覧し帰納的に了察してもらいたき旨繰り返すしか無いけれども、今次は殊に、ここに列叙した人々の骨柄がおしなべてこの形容に剴切というわけではなく、曲直・硬軟・乾湿さまざまな対象をあげつらう私自身の、いわば切り口をそれは指すのだといったことを断っておかねばならない。 |