日本海軍暗号の敗北: D暗号はいかに破られたか

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D暗号は太平洋戦争の開戦日を伝える「新高山登レ一二〇八」電の秘匿に使われた暗号である。この戦略暗号が戦時中に解読され、それがもとで、ミッドウェー海戦で日本軍が大敗し、連合艦隊の山本長官機が撃墜されたという説は日本でも広く流布している。この説が定着する上で決定的とも言える役割を果たしたのがカーン『暗号戦争』(1968)であるが、この書は実のところさしたる根拠を示していない。このため、旧海軍の暗号・通信の関係者を中心に、カーンの見解に否定的な人が存在し、米国の戦時中の機密資料が開示された後も、状況に大きな変化は無い。否定論に立てば解読されたのは強度の低い戦術暗号、仮に戦略暗号が解読されたとしても暗号書の鹵獲(ろかく)あるいは古い暗号書の使用などの不運や不手際がその原因ということになる。

 本書ではこの問題を基本に戻って考察する。まず、日米の資料が最もよく揃っている山本長官機撃墜事件を使って論点を整理し、次いで、米国の機密解除資料を用いて戦略暗号を分析する。分析の結果は、構造上の問題が戦略暗号にあったことを示す。暗号強度は暗号書を適宜更新して保つが、この問題のために暗号書の寿命は海軍関係者が想定したより短かった。いいかえると、暗号書の鹵獲あるいは暗号書の不適切使用がなくとも正攻法で解読され得た。

 実際の作戦電報が解読されたか否かは、使用暗号書の寿命内か否かの問題になる。これを、長官機撃墜事件の他、主要海戦(珊瑚海、ミッドウェー、マリアナ沖、レイテ沖)、輸送戦(ガダルカナル、キスカ)、初期と末期の戦い(真珠湾、沖縄)で検討する。このほか、陸海軍の協同作戦時の暗号、暗号書事故をまとめる。

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著者について

1950年生。1973年東北大理学部物理学科卒、1978年京大院物理学専攻博士課程中退。防災関係の仕事の傍ら戦史を研究。旧日本軍の暗号関係を中心に著述。「陸軍 暗号教範」(共編)「日本陸軍暗号の敗北」

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