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の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。

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若者は名は杜子春といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費ひ尽して、その日の暮しにも困る

位、憐な身分になつてゐるのです。

何しろその頃洛陽といへば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来にはまだしつきりな く、人や車が通ってゐました。門一ぱいに当つてゐる、油のやうな夕日の光の中に、老人のかぶった紗の帽 子や、土耳古の女の金の耳環や、白馬に飾った色糸の手綱が、絶えず流れて行く容子は、まるで画のやうな 美しさです。

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ようす

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が、うらうらと靡いた霞の中に、まるで爪の痕かと思ふ程、かすかに白く浮んでゐるのです。

「日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなささうだし――こんな思ひ

をして生きてゐる位なら、一そ川へでも身を投げて、死んでしまった方がましかも知れない。」

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杜子春はひとりさつきから、こんな取りとめもないことを思ひめぐらしてゐたのです。

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するとどこからやって来たか、突然彼の前へ足を止めた、片目の老人があります。それが夕日の光を浴

びて、大きな影を門へ落すと、ぢつと杜子春の顔を見ながら、

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「お前は何を考へてゐるのだ。」と、横柄に言葉をかけました。

「私ですか。私は今夜寝る所もないので、どうしたものかと考へてゐるのです。」

老人の尋ね方が急でしたから、杜子春はさすがに眼を伏せて、思はず正直な答をしました。

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老人は暫く何事か考へてゐるやうでしたが、やがて、往来にさしてゐる夕日の光を指さしながら、

「ではおれが好いことを一つ教へ らう。今この夕日の中に立つて、お前の影が地に映ったら、その頭に 当る所を夜中に掘って見るが好い。きつと車に一ぱいの黄金が埋まつてゐる筈だから。」

「ほんたうですか。」

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杜子春は驚いて、伏せてゐた眼を挙げました。所が更に不思議なことには、あの老人はどこへ行ったか、 もうあたりにはそれらしい、影も形も見当りません。その代り空の月の色は前よりも猶白くなつて、休みな い往来の人通りの上には、もう気の早い蝙蝠が二三匹ひらひら舞つてゐました。

11

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杜子春は一日の内に、洛陽の都でも唯一人といふ大金持になりました。あの老人の言葉通り、夕日に影を 映して見て、その頭に当る所を、夜中にそつと掘って見たら、大きな車にも余る位、黄金が一山出て来たの です。

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するとかういふ噂を聞いて、今までは路で行き合っても、挨拶さへしなかった友だちなどが、朝夕遊びに やつて来ました。それも一日毎に数が増して、半年ばかり経つ内には、洛陽の都に名を知られた才子や美人

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